文部科学省科学研究費助成事業 新学術領域研究(研究領域提案型) 令和元年~5年度(2019年~2023年度) マルチモードオートファジー:多彩な経路と選択性が織り成す自己分解系の理解

オートファジーとは細胞が自己成分をリソソームあるいは液胞へと輸送し、分解するシステムです。オートファジーと言えばマクロオートファジーを意味するほど、これまでのオートファジー研究は、オートファゴソーム形成を伴うマクロオートファジーに集中してきました。しかしながら、実際には多数のオートファジー経路が存在します。例えば、液胞膜・リソソーム膜が陥入あるいは伸長することにより細胞質成分を取り囲むミクロオートファジー、基質がリソソーム膜を透過する膜透過型オートファジー(シャペロン介在性オートファジーを含む)、受精卵や水晶体などの特殊な細胞で時期特異的に展開されるエンドサイトーシスを介した細胞膜分解(細胞成分のリソソーム分解という点で広義のオートファジーに該当)、そしてリソソームとオルガネラが直接融合する直接融合型オートファジー(従来のクリノファジーを含む)などが知られています。さらに、これらすべての経路のオートファジーが選択性を有し、時空間的に制御されたタンパク質(液—液相分離した顆粒や凝集体の状態を含む)、核酸、オルガネラなどの選択的分解により、遺伝子発現や細胞内代謝、ひいては個体としての健康維持、老化抑制にまで働くことが明らかになってきました。多様な経路で実行されるオートファジーやそれらによる選択的基質分解は相互に関連し、細胞の環境適応、恒常性、分化などの幅広い細胞機能を制御すると考えられます。細胞内分解の全体像を知るためには、これまでのマクロオートファジー偏重の研究ではなく、多様なオートファジー経路の研究をバランス良く推進し、統合的に理解することが必須です。本領域では、多様なオートファジーとそれらによる選択的分解を統合して「マルチモードオートファジー(多経路自食作用)」とし、その分子メカニズムおよび生理機能を様々なモデル生物を用いて解明します。それらの情報を基盤に、各オートファジーの連携、誘導の時系列、分解寄与度、機能進化を明らかにし、包括的な自己成分分解の理解を目指します。